01 - 02 - 03 - 04
酷い虐待暴力表現があります。
苦手な方はそのまま 04 へお進み下さい。


玄関がゆっくり閉まる。
それを一通り見送った。


「おい」


後ろから聞こえた声。
体が、びく、って跳ねる。

後ろを見たらリビングの扉が開いてて。
そこに父さんが、煙草吸いながら、立ってた。
いつ、帰って来たんだろう。

「あれは高橋のとこのか」

目を下げる。
床をじっと見る。
どうしようどうしようどうしよう、どうしたらいいんだろう。

「バレたのか、話したのか。
 そんなのどっちでもいいけどな」

何となく見上げたら、近づいてくるおっきなて。
それは怖かった、でも、しつけ、は嫌で。
でもどうしようもなくて、動けなくなる。


「ふざけんなよ」


怖い、動けない、足が震える。
がたがた体が寒くもないのに震えて、がちがち歯が鳴る。
つい後ろに下がったら、壁に当たった。

逃げないと。

そう思ってすぐ階段の方を向く。
その時に、膝を思いっきり蹴られた。

「つぅ…っ」
「なんでお前、生まれて来たんだよ」

なんで。
足が痛くて、座り込む。

なんでって、なに?
おれは、うまれちゃだめだったの?

そう思ったら涙が出てきて、止めようとしたけど、止まらなかった。
涼ちゃんといたときと同じで、ぼろぼろ出てきて、止められない。


「生まれてこなけりゃ良かったんだ。
 そうすりゃ、少しはマシだったのに」


いつもといたみは、いっしょなんだ。
きょうだけとくべついたいっていうことはないんだ。
なのにいらない、より、もっともっといたくていたくて、すごくいたい。

胸のところが、言われた、ことが、いたい。

「づッ」

思いっきり、左肩を壁に押し付けられて、前髪引っ張られて。
上を向いたら、たたかれて。
倒れたら、おなかけられて。

なんでなんだろう。

「…なに、し…たの?」
「あ?」

咳き込みながらだったから、小さな声になった。
父さんが聞き返すのも当たり前なくらい小さかった。


「おれ、きょ、わるいこと、してないよ」


俺、今日何かした?

どうして今、俺は殴られてるんだろう。
煙草はしつけ、蹴るのも殴るのも全部、怒らせたから。

でも、俺は、今日はなんにもしてない。
だって、今会っただけだ、それだけで。



「此処に居るからだろ」



ああ、そっか、おれがいるから。
いるから、かあさんはしんだんだし、
いるから、とうさんはふしあわせで、
いるから、とうさんはおれをなぐる。

いるから、いるからいるから。

おれがいるから、ぜんぶ、めちゃくちゃになったのかな。
おれはここにいちゃ、いけなかったのかな。
おれはいるからだめだったんだ。
いるからわるいこだったんだ。

(不思議とそれを何故、と、疑問には思わなかった)
(あまりにもしっくりと、俺は納得してしまっていた)


「せめて青い目じゃなけりゃ、」


あおいめ。
とうさんといっしょの、め。
きらい、きもちわるい、くろくない、め。
ふつうのひととちがう、へんないろのめ。



「お前じゃなけりゃ、ちゃんと可愛がったのに」



おれ、は?
おれは、なんで?
おれは、だめなの?

いきが、うまく、できない。
なにも、されて、ないのに。
いきが、いきが。
のどが、ひゅーひゅー、いう。

(苦しくて苦しくて、でもそれは体の痛みの所為じゃなくて。)

「は…っぐ……っ」
「咲と一緒に死んじまえば良かったのに」
「う…ッ」

また、お腹を蹴られる。
でも、別の人のことみたいな感じに思った。
痛いけど、何か、遠いのかな、そんな変な感じだった。

何でだろう、涙が止まらなかった。
何で泣いてるんだよ俺、いつもと一緒なのに。

むねが、すごくいたかった。
あたまのなかがすごくいたかった。
ぎゅうぎゅうなかでなにかがおしつめられてるみたいなかんじだった。

すごく、か な し い ?


「駄目になったのか?」


何も言えなかった。
何も言いたくなかった。
だめになった、とか、よくわかんなくて、でもどうでもよくなって。

首の部分の服を持たれて、もちあげられる。

「……」

父さんが、口に会った煙草を手に持ったのが見える。
ああ、しつけ、するんだ。
いやだなにもしてないのにおれはなにもちがうおれはいるからいたからだめでだからちがうよなにもしてないただいきてただけそれがわるいというのにきづかないからわるいこおまえがいたからおまえさえいなけれいやだいうなおねがいだからいわないでおれがわるいんだそうだよおれがいたから!
頭の中がぐるぐる、ぐちゃぐちゃになって。

近づいてくる熱い、火。


「あああああああ!」


左肩に、いつもの所に押し付けられる煙草。
じりじり、ぴりぴり。
いたいいたいいたい。
いきができないくらい、くるしい、いたい、あつい、あつい。

「い……あ…、」

ひりひり。
あつい、あつい、ねむたい。
あついのに、いたいのに、ねむいとはちがうけど。

でも、めが、おもたくて、
あけてるりゆうもないなっておもった。

だから、


そのまま、遮断した。


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