「……」
ここは、どこだろう。
アルコールの匂いがする。
「……」
しんじゃったのかな。
窓から曇ってる空と木が見えた。
「……」
ぎしぎしずきずき。
足音がさっきから遠くの方で聞こえる。
「……」
いたいのがあいまい。
足音以外何も音がしない。
「いらない」
つぶやいた。
誰かが誰かの名前を呼んだ声が聞こえる。
「起きた?」
しらないひと。
白い服を着ている女の人。
「自分のことは、わかる?」
ちゃいろのめだ。
何か言っているのが聞こえる。
「また来るね。その時はお話ししようね」
いつの間にか、バタン、と音がした。
ベッドから出て、立ち上がる。
足の裏がひんやりした。
窓があった。
外は曇ってた。
「……」
窓の反対側に、扉があった。
横に取っ手をずらして、扉を開ける。
がこん、初めは力が必要だったけどそれを過ぎればなんてことは無い、すぐ開いた。
人は居ない。
此処は病院。
どうして此処に居るんだろう。
どうでもいい。
扉を閉めるとばたんとおとがして、おと。
そとでは、だれかがあるいてくる、おと。
ちかづいて。
怖い怖い怖い怖い怖い。(漠然とした恐怖)
嫌だ嫌だ、何かが、嫌。(拒絶したのは、)
痛い。(ああおもいだした)
「いっ、いやだ、やだあああ」
「! どうしました!?」
「や、やだ、やだっ」
来る、誰が、知らない、誰、嫌だ、痛い、痛い痛い痛い痛い。
人が触る、暖かい、生温い、気持ち悪い。
触って欲しくない、ざわざわする、嫌だ。
離して欲しくて、触れていたものを引っ掻く。
小さく痛いという声が聞こえた。
痛い?
俺、わるいことした?
謝らないと、俺、悪いこと。
違う、俺、いたくするつもりじゃなくて。
ちがうちがうおれがわるいんだぜんぶぜんぶおれのせい。
ぜえぜえ、喉が。
「っごめ、なさいごめんなさいごめ、なさいごめんなさい」
「大丈夫ですよ、落ち着いて、ね。もう大丈夫」
「ごめんな、さいごめんなさいッ!」
「先生がもうすぐ来ますからっ」
ぎゅ、と看護婦が体を押さえる。
香水の匂いが強かった。
頭がずきずきしてくる。
「ごめっ、ごめんなさいごめんなさいっ!」
「先生!」
叫ぶ声。
走ってくる足音。
大勢。
声。
ひと。
おさえる、て。
だれかのてに、ちゅうしゃき。
「しつけ、は、いやだ」
ちく、って、腕が痛くなる。
しつけより、いたくないんだな。
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