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第二章第三話 のぞまれたかった だけ



「よろしくお願いします」

優しそうな人たち、3人に頭を下げる。
新しい家族、になる人、この人たちが。

「ああよろしく」

そういって笑いながら手を出した男の人は、とても気の良さそうな人だった。
隣で笑う女の人は少し困ったような表情をしていたけど、同じように手を差し出してよろしく、と言った。
最後に、高校生だって言った二人の子供、俺の、兄になる人?

「…つ、」
「?」

伸びて来る手。
なんとなくそれは震えてた。
何をされるんだろう。
触られる瞬間、ぎゅ、と目を閉じた。


「ついに弟ゲットー!!
 念願の夢、叶ったぜおらぁぁああ!」


耳元で、大声。
凄く強い力で、ぎゅーっとされる。
ちょっとだけ、苦しい。

「あ、の…っ!」
「恭助、ほら海が困ってる!」

ああごめん、と笑いながらその人は俺を離した。
それから頭を撫でくりまわされた。
なんとなく、涼ちゃんみたいな人だなって、思った。
ちっちぇー、とか、おちびー、とか言いながら。
そういう所そっくりだと思う、本当に!

「ちびじゃないっ!」
「俺からしたらちびなの、オッケー?」
「これから伸びる!」

手で俺とその人の頭までを上下行き来する手を掴んで叫んだ。
まだ、成長期っていう奴が来てないから小さいだけだ。
だってクラスじゃ、背の順で真ん中辺りだからヒョージュンなんだと思う。
そう考えてたら、その人がクスクス笑い出した。


「そうか、頑張れよ」


それから次はにっこり笑って、なんか本当に大人なんだ、って感じだった。
なんかそれみたら、それに言い返すのもムキになってるみたいで。
何となく、言い返すのは止めた。

もしかしたら、涼ちゃんより意地悪というか、手強いのかもしれない。
そんな風に、思った。


「よろしく」


でも、良い人ってことはわかって。
涼ちゃんと一緒みたいな感じだから、なんとなく、安心出来る人だと思った。



「うん、お義兄ちゃん」



凄く、良い人たちに出会えたと思って。
紹介してくれた涼ちゃんのお父さんに、感謝した。





下で、トントン、と音がしてる。
起き上がって、目をこする。
カーテンを開けたら、眩しかった。
ぼーっとそのまま、包丁の音を聞く。

ああ、もう起きないと。
頭を振って無理矢理起こす。
部屋から出て、階段を降りる。
まだ料理をしてる義母さんの姿が見えた。

「おはよう…」
「あ、早いのね、海くん」

振り返って、義母さんが笑う。
そのまま洗面所に入って水で顔を洗った。


「……」


何とか頭がしっかり起きてきた。
それから台所に戻る。

「義母さん、お皿洗うよ」
「え…あ、テレビ見ててもいいのよ?」
「ううん、手伝う」

ふぁ、とあくびが出る。
昨日は義兄ちゃんとゲーム遅くまでしてたから、少し眠い。
でも手伝わないと、義母さん大変なんだから。


「ありがとう」


義母さんからそう言われて、頭を撫でられた。

吃驚した。
頭を撫でられることは最近無くて。
何となく、恥ずかしくなって義母さんから顔をそらす。
それを笑うような義母さんの声が聞こえた。

スポンジを取って、洗剤をかける。
それからシンクの中で水が入っている丼を取って、泡立てた奴で洗う。
水が流れっぱなしで、もったいないから止めた。

「海くん、恭助とお父さん起こしてきてもらってもいい? そっちの方が結構助かるかな」
「うん、わかった」

止めていた水を出して手についていた泡を流す。
それから階段を上った。

まず義父さんの部屋に入る。
入ると畳の匂いがした。
その上にまだ布団にくるまっているお義父さんがいる。

「義父さん」
「ああうん…、何時?」
「えと、」

すぐ傍に置いてある時計を見る。
7時10分だった、そろそろ準備しないと危ないんじゃないかな。

「7時過ぎてるよ!」

声をかけて外に出る、和室から唸るような声が聞こえた。
義父さんもう起きてくれると良いけどな、そんな期待。

次に義兄ちゃんの部屋の前に行って、ノックする。
何にも中から音はしない。
だから扉を開けると、さっきの義父さんみたいに義兄ちゃんもベッドの上で布団にくるまっていた。


「義兄ちゃんっ、7時!そろそろ準備しないと遅れるよ」


義兄ちゃんの体を揺する。
義父さんと同じような声を義兄ちゃんが出す。
義兄ちゃん、ともう一回呼んで強く揺するとやっと起き上がった。

「眼鏡、取って…」
「はい」

机の上に丁寧に置いてあった眼鏡を取って、義兄ちゃんに渡す。
ありがとう、と寝ぼけたような声で返ってくる。
そのまままた布団を被ろうとしてたから、布団を取り上げる。

「義兄ちゃん起きて! 遅れる!」
「わかったわかった。叫ぶなよ、耳がキンキンする」

笑いながら義兄ちゃんがわざとずっと声を低くしていった。
どうせ俺はまだ声変わりしてないよ。
でもクラスの人も全然声変わりしてないからいいんだ。

「とにかく起きて!」

はいはい、と言いながら、よっこいしょ、と義兄ちゃんが床に立つ。
大きく伸びをしてるから、もうこれで大丈夫だ。

あとは義父さんだ。
もう一度和室に行くと、やっぱりまだ寝てた。
やっぱり一回じゃ起きてくれない。


「とーさんっ!」


大きな声で叫んで、それから強く揺する。
もそもそと義父さんは動いて布団を頭の上まで被る。
このままじゃ義父さんも俺も遅刻しちゃう。

「起きてよ、義父さん!」
「んなのじゃ無駄だって」

そう言って義兄ちゃんが横に来る。
それで、思いっきり義父さんの背中を蹴った。


「さっさ起きろよ馬鹿親父、母さん困ってる。ついでにこっちも困ってる」


いたた、と言いながらやっと義父さんが起き上がる。
一応起きたから、良いのかな。

階段を下りてる時に、ふあ、と義兄ちゃんと義父さんの欠伸が重なった。
義兄ちゃんと義父さんは凄く似てると思って、笑えた。



ぴんぽーん、と音が鳴った。
テレビに映った時間を見る。
あ、ヤバい。

「かーいー、遅れるー」
「ごめんっ!」

急いで玄関を出る。
テレビ見てる場合じゃなかった
お皿洗いもっと早くして、準備しないと。
義母さんは朝はいいよって言ってくれたけど、やっぱり手伝いたい。
だけど涼ちゃんも一緒に遅刻させるわけにはいかないし。
やっぱりもっと早く起きよう。

「海、忘れ物ー」
「あ、ごめん、義兄ちゃんっ!」

義兄ちゃんの声に慌ててまた玄関を開ける。
後ろから涼ちゃんの急かすような声がかかる。
玄関にぶら下げてあった時計を見る。

8時をもう15分過ぎていた。
ギリギリだ。

「うわああああ、いってきますっ!」
「こけんなよー」

体操服を俺に渡すと、義兄ちゃんはいってらっしゃい、と言ってくれた。
けらけら笑うお義兄ちゃんに、こけない!、と返して走った。

「上手くやってんな」
「…、」

笑って涼ちゃんが言った。
それに一瞬、ぽかんとする。
何のことを言ってるのか分からなかった。


「うん!」


でもわかった後は、大きく頷いた。
わしゃ、と頭の上に涼ちゃんの手がくる。

「避けねーとぶつかるぞー」
「へ? わッ!!」

がしゃん、といって前にあった自転車に左足がぶつかった。
なんとか涼ちゃんが腕もっててくれたから、ベタッとはこけなかった。
でも結構痛い。

「ちゃんと前見ろよー」
「…うん」

なんとか倒れなかった自転車に何となく頭を下げて、走った。
こういう遅刻しそうな時に限ってこんなことが多い気がする。

「涼ちゃん、」
「んー?」
「間に合うかな」
「さー?」

今日も綺麗に空は青くて綺麗に、晴れていた。
雲が見えない一面の青、俺の目もこんなに綺麗だったらと、少しだけ唇を噛んだ。


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